America, already great enough

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二〇一六年一一月八日、アメリカ大統領選が行われ、ドナルド・トランプ氏が第45代大統領として選出された。得票数ではクリントン氏が100万票以上多く得ていたが、大統領を選出するために必要な選挙人数ではトランプ氏がクリントン氏に70人以上の差を付け当選。事前の予想では、クリントン氏優勢と伝えられていたものの、結果はまさかのトランプ氏当選である。2017年1月20日に宣誓式が行われ、トランプ氏は正式に大統領として政権を発足させた。大統領選中でも様々な物議を醸してきたトランプ氏であるが、大統領就任後も様々な物議を醸している。就任からわずか1ヶ月しか経っていないが連日メディアは彼の話題で賑わっている。そんなトランプ氏の支持率は現在40%前後。アメリカ以外の各国市民に対する世論調査でも多くの国で「トランプ氏は悪い大統領になる」と考えている人の割合が高くなっている(Live Door News 2017年1月26日より)。多くの人がアメリカという国へ、そしてトランプという大統領を選出したアメリカにショックを受けているのではないだろうか。トランプ氏は「アメリカを再び偉大な国にする-Make America Great Again」と訴え選挙戦を戦ってきた。そんな彼が当選することでアメリカに失望するというのも皮肉なものである。しかし、私はそれでもアメリカという国は「既に十分偉大である-Already Great Enough」と思うのである。

なぜクリントンが負け、トランプが勝利したのか

2016年11月8日、アメリカ大統領選が投開票され、事前の予想を覆し、ドナルド・トランプ氏を第45代アメリカ大統領として選出した。世論調査ではクリントン氏優勢と伝えられていたため、各国は衝撃を持って結果を見つめていた。トランプ氏が当選した理由については様々な考察が行われているが、理由の一つとして「トランプ氏は『』を語り、クリントン氏は『現実』を語った」というのがあるだろう(あくまでも個人的見解ではあるが)。ここではその「」について少し深く掘り下げてみようと思う。

トランプ氏のスローガン

トランプ氏は「アメリカを再び偉大な国にする-Make America Great Again-」をスローガンとして選挙戦を戦ってきた。スローガンだけで大統領選を戦い抜けるというものではないが、長期にわたる大統領選では覚えやすいスローガンというのも重要になってくる。トランプ氏はアメリカ第一主義を掲げ、自分が当選したらかつて繁栄した自動車産業を再び復興し、関税をかけ、国内の産業を守ると訴え、ラストベルトの人々の心を掴んでいった。

クリントン氏のスローガン

対するクリントン氏は「皆で強くなろう-Stronger Together-」というスローガンで戦い、結束を呼びかけるものであった。クリントン氏の”Stronger Together”は確かにいいスローガンであるが、しかし、わかりやすさで言うとトランプ氏の”Make America Great Again”に劣るのではないだろうか。結束を呼びかける”Stronger Together”は個人的には、So What ? 「だから何?」と聞きたくなる。もしもこれが、「結束し(結束することにより)アメリカは偉大になれる」というものであれば、よりわかりやすかったかもしれない。しかし、”Stronger Together”だけでは、だから何?となってしまい、アメリカを偉大にするというスローガンで戦ったトランプ氏に負けてしまったのではないだろうか。

トランプ政権の前途

さて、「アメリカを再び偉大な国に」すると訴え、当選したトランプ氏だが得票数ではクリントン氏に100万票以上の差で負けている(アメリカの選挙制度上仕方のないことではあるが)。また、就任時の世論調査では支持率が40%前後と史上稀にみる低い支持率でスタートしている(トランプ氏はメディアの調査はでたらめだと批判しているが)。選挙戦中、様々な発言でメディアを賑わしていたトランプ氏だが、勝利演説では素晴らしい演説を行い、軌道修正したかのように思われた。「私は全てのアメリカ人(これにはヒスパニックやブラックも含まれていると思われる)の大統領になる」と語り、「今こそ私たちは一致団結した国民の姿を見せるべきだ」と訴え、まるでクリントン氏のスローガンのような演説を行った。そして選挙戦で分断されたアメリカ国民へ再び団結するよう呼びかけた(もっとも分断を促進させたのは、彼自身であるが)。そのため、選挙戦中トランプ批判であったメディアも政権発足までは攻撃の手を緩めていた。しかし、1月20日に正式に大統領として就任すると、矢継ぎ早にいくつもの大統領令に署名をし、再びメディアの批判にさらされることとなる。特に問題となっているのが、入国を制限する大統領令である。大統領令が発効し、アメリカの空港では入国を制限された人たちで混乱が生じた。そして、アメリカ各地でこの大統領令に対するデモが行われている。極めつけは連邦裁判所が出した大統領令の差し止め命令である。一部ではこの大統領令は合衆国憲法修正第1条における信教の自由に違反するとの声も出ている。これに対し、トランプ氏やその側近達は裁判所の出した差止め命令は「馬鹿げていて、危険な悪人がアメリカに入国することを助長する」と批判、また「何かが起きたら(停止命令を出した裁判官)彼と裁判制度の責任だ」と痛烈に批判している。

更に、トランプ氏の大統領顧問であるコンウェイ氏がトランプ氏の娘イヴァンカの手がけるブランドを購入するようテレビで発言するなど、通常では考えられない問題発言をしている。通常、新政権が発足して100日間はハネムーン期間と呼ばれ、メディアも政権批判を緩めるものだが、トランプ政権に限ってはそうではないようである。

このように多くの批判にさらされているトランプ氏だが、彼には「熱狂的な」支持者たちが存在する。アメリカはまさにトランプ氏によって二分されようとしているのである。

これらの事象を見る限り、アメリカは二分され、今まで各国の憧れであった「多民族国家」というアメリカはもはや差別を助長する国へと後戻りしているように見える。国境に壁を作り、イスラム圏からの入国を制限し、関税を上げ、企業を名指しで批判する。「自由の国」アメリカはどこへ行ったのか。多民族国家アメリカはどこへ行ってしまったのか。黒人初の大統領を選出したアメリカはどこへ行ってしまったのだろうか。

America; already great enough

確かに、トランプ氏が大統領に選出されたのは衝撃である。そして、彼が大統領になることで全米各地に差別的言動が増えているのは残念なことである。しかし、それでもアメリカは十分に素晴らしい国である。

なぜなら、アメリカ国民は諦めない。トランプ氏を熱狂的に支持する人たちがいる一方で、同じぐらい、いやそれ以上にトランプ氏を批判する人たちがいる。トランプ氏当選によって差別的言動が増えており、それに怯える人々がいる。だが彼らを強力に守る人達がいる。三権分立が確立されている。最高司令官(ちょっと語弊はあるが)である大統領が出した命令を司法判断によって停止させることができる。アメリカ国民は諦めない。立ち止まらない。考えることをやめない。ゴールは違っても、アメリカを、そして世界をより良くするために行動している。

2008年、アメリカ史上初めて黒人の大統領が誕生した。差別の歴史は根深く、未だにアメリカには差別が残っている。貧富の差は激しい。マイノリティと呼ばれるブラック、ヒスパニックたちは貧困にあえいでいる。しかし、アメリカは歴史を学び、より良い国を作るため努力してきた。アフォーマティブアクションと呼ばれる積極的格差是正主義を取り、マイノリティを優遇してきた。自らに責任がなくても、先祖、民族の責任として、社会の連帯責任として行動してきた。特にオバマ氏が大統領に選出されてからはそれが更に促進された。性的マイノリティLGBTの権利もついに確立した。

行き過ぎた正義は反動が大きい。2016年大統領選のトランプ当選がそれである。アメリカ国民は考える。正義とは何か。より良い国とは何か。自ら(ホワイト)が冷遇されてまで、マイノリティ(ブラック、ヒスパニック)を優遇しなければならないのだろうか。トランプ氏に投票した人たちも、そうでない人たちも考える。トランプ氏に投票したのは果たして正しかったのだろうか。民主主義とは何か。正義とは何か。多数決は必ずしも正しいのだろうか。

大統領には強大な権力が与えられている。それでも、そんな大統領の暴走を止めるためのシステムがアメリカにはある。そしてそのシステムは、(少なくとも現時点では)機能している。ジャーナリズムの歴史がある。トランプ氏はメディアを批判する。確かにメディアは時に偏った報道をする。多くの国(日本や、中国)ではメディアは政権に都合のいいことしか報道しない。でも、アメリカのメディアはトランプ氏が当選しても、大統領になっても、批判をやめない。自らの信じる「正義」のために。正義の定義は定まっていないが、でも、だからこそアメリカ国民は考える。

オバマ氏は2012年の勝利演説でこう語っている。

The role of citizens in our democracy does not end with your vote. America’s never been about what can be done for us; it’s about what can be done by us together. That’s the principle we were founded on. - 民主主義における市民の義務は投票が終わりではない。アメリカは今まで何を私たちにしてくれるかではなく、“私たちが何を出来るか”という国であり、それが建国の精神である。

アメリカ国民にはこの精神が根付いている。トランプ氏が当選した。そしてよっぽど(暗殺など)のことがない限り、トランプ氏は少なくとも4年間は大統領であり続ける。熱烈に支持している人たちがいる。でも、トランプ氏に投票しなかった人たちだって諦めない。それこそが、アメリカを「偉大な国」にしているのである。

だから私は思う。トランプは「アメリカを再び偉大な国にする-Make America Great Again」と言って当選した。正直、アメリカには差別があり、貧富の差が激しく、素晴らしい国とは言えないかもしれない。敵も多く存在する。世界からアメリカ以上に愛されている国は他にもたくさんある。でも、アメリカの素晴らしさはそこではない。「国が何をしてくれるかではなく、私たちが何を出来るかである」。そして、その機会に溢れていて、チャンスを掴む機会が多くある。人間の建てた国だからこそ、失敗もある。暴走することもある。トランプという大統領を誕生させてしまった。それでも、アメリカは前へ進む。より良い世界を作るために。そのシステム、チャンス、能力、人材、資源、全てがアメリカにはある。だから、私は思う。アメリカは「Already Great Enough-既に十分素晴らしい国」である。

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